アルザス〜Alsace〜
アルザスはフランス北東部に位置するワイン産地で、ライン川を挟んでドイツに隣接したエリアです。西側にはヴォージュ山脈が連なっています(ぶどう畑はヴォージュ山脈の東側の丘陵地帯に広がる)
ぶどう品種ドイツと共通するものが多く、同じ尺度で語られることが多いですね。また他の産地と比べて様々な土壌があるのも特徴で、品種と土壌の組み合わせから様々な味わいのワインが生まれるのがアルザスの魅力です(特徴が分かりやすい)
ヴォージュ山脈が大西洋からの湿った風を通さないため、フランスの中でも特に降水量の少ない地域です(なのでワインはかちっとする。ドイツは逆にしっとり)。乾燥して暖かな大陸性気候です。
そして、アルザスは街並みがとても可愛いです(コロンバージュと呼ばれる木骨造り、漆喰固めの家)
ストラスブールは都会ですが、コルマールや、それよりもっと小さな町は、おとぎ話の世界のような可愛い家が並んでいて、散歩しているだけでも楽しいです(女性は特に楽しいのでは?)
ヴォージュ山脈の東側に広がるぶどう畑の中心には、アルザスワイン街道と呼ばれる美しい街道が走っています。街道沿いには可愛らしい村が並び、全部で100を超えます。
アルザス地方の歴史
アルザスは歴史的にはフランスとドイツの争いの間で翻弄されてきました。両国が所有権を争い、フランス領になったりドイツ領になったりを繰り返した地域です。戦火に焼かれながらも、独自の文化を守り続けたのがアルザスです。
現在は戦争の悲惨さを表に出すこともなく、フランスの他の地域と比べても随分と明るくフレンドリーな方が多い印象を持ちます。
アルザス地方の料理、食材
シュークルートはアルザスで最も有名な料理ですね。乳酸発酵させたキャベツ=シュークルート(ザワークラウト)と、豚肉やソーセージを白ワインで軽く煮込んだ料理です。
肉ではなく魚と合わせたシュークルートもあります。
ベックオフ(ベッコフ)は肉やジャガイモなどの野菜を蓋をした専用の器で蒸し焼きというか、蒸し煮みたいにした料理です。
ベッコフは伝統的には豚肉、牛肉、仔羊の肉を合わせて使います。パン屋の竈という意味で、もともとはパン屋に材料が入った鍋を預け、パンを焼いた後の余熱で火を入れてもらっていたことから、ベックオフという名前になりました。
日本だと豚肉とじゃがいもの煮込みみたいな捉え方をされていることが多い気がします(洋風肉じゃがみたいな感じ)
タルトフランベは薄焼きの軽い食感のアルザス風ピザです。お菓子のようにサクサク食べられます。イタリアのピッツァに多いトマトソースは使わず、フロマージュブランやマンステールなどのチーズとクリーム、たまねぎ、ベーコンやラードン(脂肪の多いベーコンみたいなもの)を使ったものが多いです(色々とバリエーションがある)
タルトフランベはフランス語で、アルザス語だとフラムクーヘです。
ドイツや南チロルが有名なパスタのシュペッツレは、アルザスでも食べられています。ツバメの巣の意味の柔らかくて少し団子状のショートパスタです(細長いのもある)
アルザスは、フォワグラも特産品です。生産量としては南西地方の方がずっと多いですが、アルザスのフォワグラもとても上質です。
フォワグラはガチョウやアヒルに大量の餌を与えて肝臓を肥大化させたものですが、その作り方が世界的に問題にもなっていますが、歴史的には古代ローマの時代から食べられている食材です。
アルザスは、フォワグラ・ドワ=ガチョウのフォワグラが有名です。
アルザスのお菓子で、まず最初に名前が上がるがはクグロフです。専用のクグロフ型で焼かれるレーズン入りの発酵菓子です。
シュトロイゼルはシナモンやバター、小麦粉などで作るポロポロした粒状のクランブルのようなものですが、シュトロイゼルを乗せたタルトなどもよく見かけます。
クグロフもシュトロイゼルもドイツでも食べられているもので(プレッツェルもそうですね)、他にもドイツの文化を感じさせる料理やお菓子は多いです。
12月6日のサン・ニコラの日に食べるマネレ(マナラ)という愛嬌のある人形の発酵菓子も知られています。
チーズとしてはマンステールが非常に有名で日本でもよく見かけます。香りの強いウォッシュタイプのチーズですが、味わいはクリーミーです(マンステールは小さなコミューンの名前でもあります)
アルザスワインのスタイルとぶどう品種
アルザスワインというと、白ワインが主体で、まずフルーティで少し甘い味わいのリースリングがあげられることが多いですが(もちろんそういうスタイルのリースリングも多いですが)、それはアルザスワインの一部でしかありません。基本ですらないと思います。
リースリングの本質は、カチッとしてまっすぐ整った形にあると思います。決して飲みやすい品種ではないです(それを甘くて飲みやすいワインだという印象にまで、出来ているのは凄いことだと思います)
親しみやすさというよりは高貴さのある品種です。
リースリングの他にもゲヴェルツトラミネール、ピノグリ、ピノブラン、ミュスカ 、シルヴァネールが基本品種としてあり(他にももう少しありますが)、伝統的には混醸されていました。もともと多く栽培されていた品種はピノブランとシルヴァネールです(現在はグランクリュを名乗れない二品種)
現代においては、品種がブレンドされたワインは、価格帯が安いエデルツヴィッカーやジョンティとして存在しますが、単一品種のワインが主流となっています(ラベルに品種名を書くスタイルですしね)
ですが、ブレンドしたワインならではの魅力もありますので、いい場所で栽培されたぶどうを使った混醸ワインが増えてきたら面白そうです(徐々に増えているとか?)
他にも少量ですが、シャスラがあったり、ハイリゲンシュタイン村ではクレヴネル(サヴァニャン・ロゼまたはトラミネール)を使った、クレヴネル・ド・ハイリゲンシュタイン〜Klevener de Heiligenstein〜というワインもあります(トラミネールは南チロルのトラミン原産と言われていますが、違うという話もあります)
ゲヴェルツトラミネールは、トラミネールの選抜品種群です。クレヴネルは硬さのない優しい質感で、あらゆる要素がゲヴェルツトラミネールより弱いですが、そこが魅力です。多少しつこいゲヴェルツトラミネールも多いですよね。クレヴネルは飲みやすいです。
アルザスのワイン生産地域
アルザスは北のエリアのバ=ラン〜Bas-Rhin〜と南のエリアの〜Haut-Rhin〜に大きく分けられます。日本に入ってきているアルザスワインはオー=ランのものがかなり多く、バ=ランのワインは極端に少ないです。オー=ランの方がクオリティが高いとは、よく聞く言葉ですが、そんなことはなく、バ=ランにもたくさんの質の高いワインがあります。バ=ランはより冷涼でかっこいい味がします。
アルザス・グランクリュ〜Alsace Grand Cru〜
そして一番探求しがいのあるアルザス・グランクリュ。品種はリースリング、ゲヴェルツトラミネル、ピノグリ、ミュスカの4品種で、かつ単一品種で造る必要があります(一部例外あり)。アルザスは様々な土壌が入り組んでいて、 グランクリュごとの違いが明確です。土壌と品種と標高や南北の違いを理解すると、味の差異がわかりやすく、ほぼジュラ紀の石灰岩のみで差異を生み出すブルゴーニュより特徴を捉えやすいと思います。
日本においては品種が重視され、グランクリュのことは、そんなに気にしている人が少ないように思います。ですが、アルザスのグランクリュは値段も安く、普通に品種名ワインと比べて、圧倒的にクオリティが高いので、本当にお買い得です。
加えて地域ごとに見る方もまだ少ないです。ブルゴーニュと同じように、北から南まで村ごとにみて、グランクリュを把握していくことが大切です。
グランクリュの認知度の低さは、日本で見かけるグランクリュの名前からもわかります。グランクリュは51もあるのに、見かけるのはシュロスベルグ 、キルシュベルグ・ド・バールといった同じものばかりです。これらのグランクリュももちろん素晴らしい畑ですが、豊かなバリエーションが魅力のアルザスなのに、同じものばかりなのはつまらないです。
個人的になんとか探して、色々とグランクリュを飲んできましたが、それでもまだ飲んだことないグランクリュがいくつかあります。
アルザス・グランクリュ一覧(51)
- シュタインクロッツ〜Steinklotz〜
- エンゲルベルグ〜Engelberg〜
- アルテンベルグ・ド・ベルグビーテン〜Altenberg de Bergbieten〜
- アルテンベルグ・ド・ヴォルクスハイム〜Altenberg de Wolxheim〜
- ブリューデルタール〜Bruderthal〜
- キルシュベルグ・ド・バール〜Kirchberg de Barr〜
- ゾッツェンベルグ〜Zotzenberg〜
- カステルベルグ〜Kastelberg〜
- ヴィーベルスベルグ〜Wiebelsberg〜
- モエンチベルグ(メンヒベルグ)〜Moenchberg〜
- ムエンチベルグ〜Muenchberg〜
- ヴィンツェンベルグ〜Winzenberg〜
- フランクシュタイン〜Frankstein〜
- ピラウラタンベルグ〜Praelatenberg〜
- グロケルベルグ〜Gloeckelberg〜
- カンツラーベルグ〜Kanzlerberg〜
- アルテンベルグ・ド・ベルグハイム〜Altenberg de Bergheim〜
- オステルベルグ〜Osterberg〜
- ガイズベルグ〜Geisberg〜
- キルシュベルグ・ド・リボーヴィレ〜Kirchberg de Ribeauvillé〜
- シュナンブール(ショーネンブール)〜Schoenenbourg〜
- ロザケール〜Rosacker〜
- フローエン〜Froehn〜
- ゾーネングランツ〜Sonnenglanz〜
- マンデルベルグ〜Mandelberg〜
- スポーレン〜Sporen〜
- マルクラン〜Marckrain〜
- シュロスベルグ〜Schlossberg〜
- マンブール〜Mambourg〜
- フルシュテンタム〜Furstentum〜
- ケフェルコフ(ケフェルコプフ)〜Kaefferkopf〜
- ヴィネック・シュロスベルグ〜Wineck-Schlossberg〜
- フロリモン〜Florimont〜
- ソンメルベルグ(ゾマーベルグ)〜Sommerberg〜
- ブランド〜Brand〜
- ヘングスト〜Hengst〜
- シュタイングルーブラー〜Steingrubler〜
- アイシュベルグ(アイヒベルグ)〜Eichberg〜
- プェルシッグベルグ〜Pfersigberg〜
- ハッシュブルグ〜Hatschbourg〜
- ゴルデール(ゴルデルト)〜Goldert〜
- シュタイネール〜Steinert〜
- フォルブルグ〜Vorbourg〜
- ツィンコップレ〜Zinnkoepflé〜
- フィングスベルグ〜Pfingstberg〜
- スピーゲル〜Spiegel〜
- ケスレール〜Kessler〜
- サエリング(ザーリング)〜Saering〜
- キッテルレ〜Kitterlé〜
- オルヴィレール〜Ollwiller〜
- ランゲン〜Rangen〜
アルザス・グランクリュのより詳細な紹介はこちらをどうぞ。
アルザスの甘口ワイン
グランクリュとは別の格付けとしてヴァンダンジュ・タルティヴ〜Vendanges Tardives〜やセレクション・ド・グラン・ノーブル〜Sélection de Grains Nobles〜という甘口の基準もあります。
ヴァンダンジュ・タルディヴは遅摘みのぶどうを使って造られた甘口のワインで、セレクション・ド・グランノーブルは貴腐ぶどうを使って造られたワインです。糖度や貴腐ぶどうかどうかが基準となるため、普通の畑のものもあるし、グランクリュ畑のものもあります。収穫時の果汁糖分最低含有量がそれぞれ品種ごとに定められています。
アルザスの赤ワイン
白ワインの産地として有名なアルザスですが、赤ワインも美味しいものがあります。品種はピノノワールですが、ブルゴーニュとは随分と異なる、チャーミングさのあるほんわかとしたワインが多いです。もちろん、土壌により、印象は変わりますが、ジュラ紀の石灰岩土壌のピノノワールでも、ブルゴーニュと随分印象が違うので(気候や醸造の仕方が違うのを加味しても)、そもそもクローンが違うのではないかと思います(事実がどうかは知りません)
そしてやっぱり魅力的なのが、グランクリュで栽培されたピノノワール。法律上、ピノノワールはグランクリュを名乗れないのですが、多くの造り手が、グランクリュの頭文字を表記したピノノワールをリリースしています。ピノノワールのグランクリュ認可の動きもあるようです。
追記:2022年ヴィンテージからキルシュベルグ・ド・バールとヘングストの二つのグランクリュ でピノノワールが認可されました。
アルザスのプルミエクリュの動き
アルザスでは現在、プルミエクリュを作ろうという動きがあります。現状はまだ存在しませんが、いずれは認められるようになりそうです(正直グランクリュだけで手一杯なので、プルミエクリュが増えたらお手上げです)。マルセルダイスのようにすでに自分でプルミエクリュを決めてラベル表記している造り手もいます。
アルザスはナチュラルなワインがたくさんあります。アルザスのナチュラルワインについての記事はこちらをご覧ください。
ロレーヌ地方
アルザス地方の西側には、ロレーヌ地方があります。アルザス地方と同じようにドイツ領(神聖ローマ帝国領)になっていた時代も長く、ドイツの影響を多く受けている産地です。
コート・ド・トゥールという赤ワイン、白ワインにグリワインも認められたアペラシオンがあります。
コート・ド・トゥールのグリはガメイとピノノワールから造られますが、チャーミングでなかなか美味しいです。
もう一つ、モーゼルというアペラシオンもあります。名前もドイツにあるモーゼルと同じですが、モーゼルの白ワインはミュラー・トゥルガウも認められていて、アルザス以上にドイツに寄った地域です(そしてこれも美味しい)