南西地方〜sud-ouest〜

バスク・ピレネー地区のワインの特徴

南西地方風景 バスク

バスク・ピレネー地区〜Basque & Pyrénées〜

ソムリエ教本などではピレネー地区と表記されていますが、バスクを加えた方が理解しやすい感じがあるので、バスク・ピレネーと紹介しています。

名前の通り、ピレネー山脈の麓に広がるエリア、フランス領バスク(フレンチ・バスク)と呼ばれる地域とその周辺エリアで、バスク地方は現在でこそ国が分かれていますが、元々はスペインのバスクを含めて同じ文化圏でした。そのためスペインのバスク地方も一緒に考えた方が理解が深まります(スペインに4つの地域、フランスに3つの地域からなる)

バスク地方は今でもバスク語を話す方が多くいます(ヨーロッパのどのグループにも属さない言語)

生真面目で我慢強いのがバスク人気質などと言われ、スペインやフランスの他の地域とも随分と違う特殊な地域の一つです。

バスク地方には、ラウブルまたはバスク十字と呼ばれる4つの羽が回っているようなシンボルマークがあり、お菓子や看板などでよく見かけます。

バスク地方全体で見ると、フランス領バスクは非常に小さなエリアです(バスク地方の代表的なワイン産地はイルレギ)

フランス領バスクの有名な街は、大西洋岸のリゾート地のビアリッツや、生ハムで有名なバイヨンヌ、海辺の小さな町、サン・ジャン・ド・リュズなどがあります。

バイヨンヌはチョコレートでも知られていますし(フランスで最初にチョコレートが伝わったのはバスク地方なんだとか)、夏に行われるバイヨンヌ祭りは、白い服と赤いスカーフといったバスク建築と同じ色の服装をして、エンシエロ(牛追い)やパレードなどが行われる有名なお祭りです。

エスプレット村の唐辛子、ピマン・デスプレッドもバスク地方の名物の一つですね。ピマン・デスプレッドを使用した煮込み料理のピペラード(トマト、ニンニク、タマネギなどの煮込み)はこの地方の定番料理です。お菓子のガトーバスクも知られています。

バスク地方のとなりのベアルヌ地方の料理であるガルビュールも南西地方を代表する料理の一つです(小さくカットしたキャベツなどの野菜や豆のスープ)

ルルドの泉もこのあたりにあります。

ワイン産地としてはバスク・ピレネー地区には、マディラン、パシュラン・デュ・ヴィク・ヴィル、ジュランソン、イルレギ、ベアルン、サン・モン、トゥルサンといったアペラシオンがあります。

ピレネー山脈に近い産地は秋の終わり頃まで暖かい温暖な地域です。

街や食材などで知名度が高いのはバスクのエリアですが、ワイン産地の多くはフランス領バスクの外側に広がっています。

スペイン側のバスク地方は、現在はバスク州となっています。隣のナバラ州(ナバーラ州)もバスク地方の一部と言えますが、バスク州と一緒になることを望まず別の州となっています(バスク語ではナファロア州と言い、バスク地方を構成する地域の一つではあります)

ナバラは中世にはナバラ王国があったところです(ブルボン朝初代王のアンリ4世はナバラ王国領のポー出身。ポーはフランス側の街)

スペイン・バスクはフレンチ・バスク以上に美食で知られています。サンセバスチャンやビルバオといった街が有名で、街にはバルが数多くあり、バル巡りが楽しい街として知られています。

またサンセバスチャンは高級店も多く、ミシュランの三ッ星店が3店舗あります(三つ星はスペイン全土でも11店しかない。サンセバスチャンにある三つ星は、アルサック〜Arzak〜マルティン ベラサテギ〜Martin Berasategui〜、アケラレ〜AKELARE〜)

スペイン・バスクのワインで有名なのはチャコリです(バスク語だとチャコリン)アラバ、ビスカヤ、ゲタリアという3つの地域がDOとして認定されています(DOに認定されていないがチャコリを造っている地域はある)

ぶどうの栽培地は大西洋沿岸部ですが、降水量がかなり多い地域です。

チャコリは極微発泡のワインで、ほとんど白ですが、赤ワインとロゼワインもあります。白ワインに使われるぶどうはオンダラビ・スリという品種が主体となります。元々はかなり酸の強いワインで、エスカンシアと呼ばれる方法で、高い位置からグラスに注ぐのをよく見かけましたが、現在は酸も穏やかなワインが多くなり、普通にグラスに注いで飲む場合も多いです。

バスク州とナバラ州にまたがるワイン産地としては、スペインでも特に知られたリオハがあります。リオハはDOCa(特選原産地呼称)に認定されています。リオハ・アラベサ、リオハ・アルタ、リオハ・バハの3地域に分かれていますが、伝統的には3地域をブレンドしてワインを造ります(今は単一地域が増えている)

リオハ・アルタは粘土質が、リオハ・アラベサは石灰質が多い土壌です。白ワインやロゼワインもありますが、テンプラニーリョを主体とした赤ワインが主で、樽熟成の期間によって4タイプに分けられるのが特徴です。熟成期間の短い順から、通常のリオハ、クリアンサ、レゼルバ、グラン・レゼルバです。グラン・レゼルバになると最低60か月熟成させます。

リゼルバやグラン・レゼルバは、柔らかいのにしっかりと芯があり複雑な熟成感が魅力です。

マディラン〜Madiran〜

南西地方カップマルタンマディラン

マディランはカオールと並んで南西地方で知名度のある赤ワインのアペラシオンです。粘土石灰質土壌。

マディランは、タナ種を主体とした赤ワインの産地です。タナはタンニンが名前の由来となっていて、強い渋みが特徴です。

マディランを世界的に有名にしたのはアラン・ブリュモンです。アラン・ブリュモンのシャトー・モンテュス〜Chateau Montus〜の知名度が、そのままマディランの知名度と言って良いくらいです。

ただ近年は、他の造り手にもスポットライトが当たるようになり、良くも悪くもアラン・ブリュモンの味わいがマディランの全てみたいな状況が変わり、マディランのテロワールがみえてきたように思います。

カップ・マルタンのマディランもオススメです。いくつかのタイプのマディランを造っていますが、価格の安いマディラン・トラディションは軽やかで、イメージとは違いマディランの人当たりの良さを感じます。もう少し価格の高いマディランVVになると、多くの人がマディランに期待するタンニンの強さやガッチリした骨格が表現されています(アラン・ブリュモンもそうですがテロワールではなく造りによる味わいの表現ですね)

パシュラン・デュ・ヴィク・ヴィル〜Pacherenc du Vic Bilh〜

マディランと同じエリアの白ワインはアペラシオン名が変わり、パシュラン・デュ・ヴィク・ヴィルとなります。

ぶどう品種はプティ・マンサンやグロ・マンサン、プティ・クルヴュなどが主体となります。基本的に甘口ですが、辛口もあり、パシュラン・デュ・ヴィク・ヴィル・セック表記になります。このエリアの主要品種は酸が強いものが多く、甘口ワインにもしっかりとした酸を感じます。

総じてパシュラン・デュ・ヴィク・ヴィルはマディランと同じ地域、土壌とはいえ、より伸びやかなものが多いです。

ジュランソン〜Jurançon〜

南西地方ジュランソンセック11

ジュランソンもプティ・マンサン、グロ・マンサンなどを主体とした白ワインの産地で、パシュラン・デュ・ヴィク・ヴィルと同じく甘口が有名ですが、辛口ワインの質も高くジュランソン・セック表記となります(個人的にはセックが好き)

先に少し紹介したポーの街のすぐ近くに広がるアペラシオンで、ポーの街からポー川を挟んだ対岸に位置するジュランソンを中心とした25の街でワインは造られています。

ピレネー山脈からの南風により樹上でパスリヤージュが可能で、上質な甘口ワインが造られます。

氷河に削られ運ばれてきた丸い礫(石灰岩)が多くあるのが特徴です。砂岩や粘土もあります。パシュラン・デュ・ヴィク・ヴィルと同じような品種構成ですが、より品格があり伸びやかな印象を受けます。

ぶどう畑は標高300mあたりまでの斜面にあり、ピレネー山脈と向かい合うように広がっています。

カマラレ、ローゼといった補助品種も認められています。

ドメーヌ・コアペはジュランソンの中でもトップクラスの質の高いワインを造る生産者です。甘口ワインのモワルーが美味しいのはもちろんのこと、辛口のセックの質も抜群です。

甘口ワインも辛口ワインも数種類のキュヴェを造っていますが、ジェゼー・ジュランソン・セックの、プティ・マンサン30%、グロ・マンサン30%、カラマレ30%、ローゼ5%というセパージュが良い感じです(造っているワインの中で最もセパージュの種類が多い)

イルレギ〜Irouleguy

イルレギ14エリミナ

イルレギはバスク地方の中心地に位置するアペラシオンです。山間部にあり、非常に急斜面の畑です。温暖な気候で秋も比較的暖かく、雨量も安定しています。赤色砂岩や石灰岩土壌。石が多い。

白ワインはプティ・マンサンやグロ・マンサンを使っていて、周辺のアペラシオンと同じ品種ですが、辛口ワインのみです。

赤ワインはカベルネフランまたははタナを主体としたワイン、ロゼワインもあり、黒ぶどう主体ですが、白ぶどうもブレンド出来ます。

シャトー・ペトリュスの醸造長を二代続けて務めているベルエ家所有のドメーヌがエリ・ミナです。以前はビオディナミを行なっていましたが、現在はリュット・リゾネに変えたというユニークな造り手です。ビオディナミならではのエネルギー感に欠けるとは言え、現在も真っ当なナチュラルワインで、さすがはベルエ家という造りの安定感です。

ベルエ家のワインなので赤の方が良さそうですが、イルレギの白ワインとても良いです。

ベアルン〜Béarn〜

ベアルン

かなり広いエリアを網羅しているアペラシオンのベアルン。かつてベアルン・べロックというアペラシオンだった中心エリアに加えて、マディランやジュランソンの地域もベアルンの範囲に含まれます(完全にマディラン、ジュランソンのエリアと一致するわけではない)

泥灰岩や粘土質の土壌です。

赤ワインとロゼワインは、カベルネフラン、カベルネソーヴィニヨン、タナを主体としています。白ワインはラフィア・ド・モンカードという珍しいぶどう品種を使用しています。

南西地方風景ベアルン

ジュランソンのエリアで赤ワインとロゼワインを造った場合と、マディランのエリアでロゼワインを造った場合がベアルンになる感じです。マディランのエリアは赤ワインでもベアルンを名乗れる場合もありますが、あえてベアルンを造る生産者はいない気がします(カベルネ主体のワインを造りたい場合はありえる)

白ワインは以前はもっと認可されているぶどう品種がありましたが、今は一種類だけなのでエリア関係なくラフィア・ド・モンカードを使うならベアルンです。

ベアルンのワインもあまりありませんが、ドメーヌ・ド・ラ・ケラベール のベアルンは購入可能です。マディランの街の近く、少し南西にあるタロン・サディラック・ヴィエルナーヴの街のドメーヌで、エリア的にはベアルン・べロックです。タナ主体。

サン・モン〜Saint Mont〜

南西地方サンモンコムアラメゾン

サン・モンはアドール川を挟んだマディランの対岸のエリアです(対岸ではない場所もある)。

赤ワインとロゼワインはタナを主体としていて、白ワインはグロマンサンに、プティマンサン、プティクルヴュ、サン・モンならではのアルフィアック(フローラルで優しい品種)をブレンドしています。

お手頃な価格でかつ質の高いサン・モンですが、特に白ワインがおすすめです。軽やかで贅肉のないすっきり感のあるワイン。

サン・モンと言えばプレモン協同組合のワインが人気ですね。安くてかつ質が高いです。安心の味わい。ランプラントゥ ド・サン・モンはグロマンサン、プティマンさん、プティクルビュから造られています。

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そしてプレモンのワインで圧巻なのはヴィーニュ・フィロキセリックです。砂質土壌の自根のタナが主体のワインで、圧倒的なエネルギー感があります。この畑には何かわからない古いぶどうもいくつか栽培されているようです。

トゥルサン〜Tursan〜

サン・モンの西側に隣接するトゥルサン。カベルネフランとタナを主体とした赤ワイン、ロゼワインがあり、白ワインは、トゥルサンならではのバロックやグロマンサンが主体です。またクラヴリーという非常に栽培面積の少ない白ぶどうも補助品種として使えます。

トゥルサン・ル・プリュール・デ・オーギュスタンは、バロック55%、グロ・マンサン43%、ソーヴィニョンブラン2%から造られているワインで、グレープフルーツのような爽やかさがあり、非常にさっぱりした味わいです。バロックという品種の魅力が味わえる一本です。

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