アルザス・グランクリュ〜Alsace Grand Cru〜
アルザスには51のグランクリュがあります。アルザスのワインの中でも4%程度とかなり少ない生産量です。
アルザスのグランクリュは、畑ではなくリュー・ディ(小区画)で分けられています。ですが、51の畑と分かりやすく考えてもいいのではないかと思っています。
1975年に制定されたアルザス・グランクリュは、当初はシュロスベルグのみでした。1983年と、1992年の2回リュー・ディがプラスされて50になりました。最後2007年にケフェルコフが追加されて現在の51となっています。
2011年まではアペラシオンはアルザス・グランクリュのみで、リュー・ディ自体が格付けされていたわけではありません。2011年以降はリュー・ディがアペラシオンとして認められています。
グランクリュに限った話ではありませんが、アルザスの言葉はカタカナ表記し辛く、日本での呼び名がいくつかあるものも多いです。
1983年と1992年にグランクリュに選ばれたリュー・ディを比べると、全体としては(必ずではありませんが)、1983年に選ばれた方が良いテロワールのように思います。
アルザス・グランクリュを名乗れるのは基本的に4つの高貴品種を単一で使用している場合のみです(一部例外あり)。4つの品種はリースリング、ゲヴェルツトラミネル、ピノグリ、ミュスカです。
例外としてゾッツェンベルグはミュスカの代わりにシルヴァネールが使用可能で、アルテンベルグ・ド・ベルグハイムは、リースリング主体の混醸、ケフェルコフはゲヴェルツ主体の混醸(アッサンブラージュも可)も認められています。
上記以外にも複数品種で造られたグランクリュを見かけたことがありますが(シャルルスパーのブランドはピノブーロ主体にリースリングなどがブレンドせれている)、それがなぜ大丈夫なのかは不明(マルセルダイスは除く)
ブレンドしたグランクリュもまた違った魅力があるので、規定が変わってもいいのかもしれません。
他にもグランクリュ自体をブレンドしたワインもあります(グランクリュは名乗れませんが)トリンバックのキュヴェ・フレデリックエミールはオステルベルグとガイズベルグのブレンドですし(そもそもトリンバックはグランクリュ制度に反対していた)、ドメーヌ・ガングランジェはシュタイネールとツィンコップレをブレンドしたものを造っていました。
アルザス・グランクリュのリュー・ディ
アルザスのグランクリュのリュー・ディを北から南(だいたい)に紹介していきます。大まかなリュー・ディの特徴を書いていますが、その特徴と品種の掛け合わせが実際のワインの味わいです(もちろん造りで変わりますが、どういう傾向のワインになるのかはわかると思います)
グランクリュに限りませんが、基本は石灰岩がピノ系や、ゲヴェルツ・トラミネール、ミュスカ、シルヴァネール、非石灰がリースリング、粘土の多い重めの土壌はピノやゲヴェルツ・トラミネールとなります(例外あり)。
紹介の一番最初に書かれているのは、そのグランクリュがある村の名前です。
バ=ランのグランクリュ
シュタインクロッツ〜Steinklotz〜
マルレンハイム。1992年グランクリュ認定。もともとは有名なピノノワールのクリュ(ガメイだったという話もあるが、後にブルゴーニュ公になるティエリー二世が若い頃にマルレンハイムで暮らしていたことと関わりがあるようです)三畳紀ムシュカルク(石灰岩)褐色の石灰質土壌。硬い石灰岩の塊があるのでシュタインクロッツ=石の塊、という名前になっています。
エンゲルベルグ〜Engelberg〜
シャラッシュベルグハイム、ダーレンハイム。1992年グランクリュ認定。ジュラ紀石灰岩、泥灰岩。上部はバジョシアン、黄色っぽい岩が露出している。下部は石灰強い。天使の丘の意味。
アルテンベルグ・ド・ベルグビーテン〜Altenberg de Bergbieten〜
ベルグビーテン。1983年グランクリュ認定。割と固め。三畳紀ムシュカルク。石灰岩、泥灰岩に石膏。
アルテンベルグ・ド・ヴォルクスハイム〜Altenberg de Wolxheim〜
ヴォルクスハイム。1992年グランクリュ認定。ジュラ紀石灰岩。ミュスカで有名だったリュー・ディですが、現在はリースリングが多くなっています。
ブリューデルタール〜Bruderthal〜
モルスハイム。1992年グランクリュ認定。三畳紀ムシュカルク(石灰岩)、ドロマイト。硬い石灰岩、粘土も多め。小石が多い。茶色の石灰質土壌。ブリューデルタールの頭の部分、ブルーダーは兄弟の意味。
キルシュベルグ・ド・バール〜Kirchberg de Barr〜
バール。1983年グランクリュ認定。三畳紀泥灰岩と石灰岩。穏やかで品が良い。スケール感とスピード感(急斜面、土が軽め)。ゾッツェンベルグより温かい。クロ・ツィセール〜Clos Zisser〜、クロ・ゲンズブローネル(クロ・ガエンスブロンネル)〜Clos Gaensbronnel〜は特に優れた区画と言われています。
ゾッツェンベルグ〜Zotzenberg〜
ミッテルベルグハイム。1992年グランクリュ認定。シルヴァネールで造ったワインもグランクリュを名乗れる。ジュラ紀の石灰岩と泥灰岩、そして砂岩。柔らかさ、滑らかさ。涼しいクリュ。熟するのが早く、石灰岩と相性がいいシルヴァネールが美味しい。柔らかくボリュームがあってダレないワインになります。
カステルベルグ〜Kastelberg〜
アンドロー。1983年グランクリュ認定。グランクリュ唯一のシスト土壌。シルル紀の古い土壌。まっすぐしなやかに伸びていく。
ヴィーベルスベルグ〜Wiebelsberg〜
アンドロー。1983年グランクリュ認定。三畳紀の砂岩。細身でまっすぐで柔らかい。清涼感がる。カステルベルグのようなしなやかさはない。
モエンチベルグ(メンヒベルグ)〜Moenchberg〜
エイショッフェン、アンドロー。1983年グランクリュ認定。重め。地味さ。第四紀と第三紀。粘土石灰、シルト、砂岩、小石、粘土。緩やかな斜面、暖かく早熟。モエンチベルグは修道士の山みたいな意味から来ています。
ムエンチベルグ〜Muenchberg〜
ノタルテン。1992年グランクリュ認定。ペルム紀の火山岩と火山灰に砂岩、軽い土壌。火山性のグランクリュの中で最もふわりとして抜けがいい。
ヴィンツェンベルグ〜Winzenberg〜
ブリアンシュヴィレー。1992年グランクリュ認定。両雲母花崗岩。石英が多め。花崗岩の岩がところどころに露出している。30〜50センチの浅い表土。急斜面。暖かい。ヴィンツェンベルグの名前は、ラテン語で葡萄畑を意味するvinetum(ウィーネトゥム)から来ています。
フランクシュタイン〜Frankstein〜
ダンバック・ラ・ヴィル。1992年グランクリュ認定。花崗岩。柔らかい質感。
ピラウラタンベルグ(プレラーテンベルグ)〜Praelatenberg〜
キンツハイム。1992年グランクリュ認定。花崗岩、片麻岩の砂質。石も多く、褐色の土。急斜面。ローマ人にすでに知られていた畑。
アルザス・バ=ランのグランクリュの詳しい紹介はこちらからどうぞ。
オー=ランのグランクリュ
グロケルベルグ〜Gloeckelberg〜
サン・ティポリット、ロデルン。1983年グランクリュ認定。花崗岩、ヴォージュの茶色の砂岩。頁岩もある。
カンツラーベルグ〜Kanzlerberg〜
ベルグハイム。1983年グランクリュ認定。三畳紀マルヌ(泥灰岩)。ムシュカルク。石膏。キリッとして整った。グランクリュ的な凄みは出にくいが、美味しいワインが出来る。
アルテンベルグ・ド・ベルグハイム〜Altenberg de Bergheim〜
ベルグハイム。1983年グランクリュ認定。ジュラ紀石灰岩、泥灰岩。マルセルダイスのおかげで、複数品種の混醸が可能になったリュー・ディ。ピノブランやピノノワールやシャスラといったグランクリュとして認められていない品種まで使えます(条件あり)。マルセルダイスはなぜか、アルテンベルグ・ド・ベルグハイム以外も混植混醸が認められているようです。
明るい性格、少し重め。マルセルダイス以外のアルテンベルグ ・ド・ベルグハイムはあまり印象に残らない。
オステルベルグ〜Osterberg〜
リボーヴィレ。1992年グランクリュ認定。上に抜ける。派手さはない。丸みがある。トリンバックのキュヴェ・フレデリック・エミールはオステルベルグとガイズベルグのブレンド。ガイズベルグと繋がったリューディですが性格は全然違う。三畳紀ムシュカルク。粘土。東部はドロマイトが強い。西部のガイズベルグ周辺の方が涼しい(夜涼しい風が吹く)
ガイズベルグ〜Geisberg〜
リボーヴィレ。1983年グランクリュ認定。粘土が多めのマルヌ(泥灰岩)。砂岩。急斜面。修道院が持っている西端の区画が最上区画。重くなりそうだけど、重くならない。三畳紀ムシュカルク(石灰岩)ドロマイト。泥灰岩。
キルシュベルグ・ド・リボーヴィレ〜Kirchberg de Ribeauvillé〜
リボーヴィレ。1983年グランクリュ認定。さらっとしている。泥灰岩土壌、砂岩も。下部は三畳紀ムシュカルク初期のドロマイト。上部はムシュカルク中期の砂岩、石膏、泥灰土。非常に石が多い。表土は60〜100センチ。教会の山、の意味。
シュナンブール(ショーネンブール)〜Schoenenbourg〜
ツェレンベルグ、リクヴィール。1992年グランクリュ認定。粘土多い。三畳紀石灰岩。泥灰岩。砂岩。石膏。冷たい風の通り道。カチッとした酸。
ロザケール〜Rosacker〜
ユナヴィール。1983年グランクリュ認定。重くてどっしり、丸み。伸びはない。横幅がある。トリンバックのクロ・サン・テューヌはロザケールのぶどうを使っています。三畳紀ムシュカルク、泥灰岩と石灰岩。ドロマイト、深い表土。
フローエン〜Froehn〜
ツェレンベルグ。1992年グランクリュ認定。ジュラ紀前期リアスの泥灰岩。シストもある。
ゾーネングランツ〜Sonnenglanz〜
べブレンハイム。1983年グランクリュ認定。緩やかな斜面。細身、密度がある。そこまで伸びはないが上に向かう。第三紀漸新世のコングロメレイト(礫岩)粘土が多めの深い石灰岩。
マンデルベルグ〜Mandelberg〜
べブレンハイム、ミッテルヴィール。1992年グランクリュ認定。水平的。そこそこ厚みがある。滑らかさ。漸新世の泥灰質土壌、コングロメレイト 。石灰質の茶色の土。粘土多め、小石。マンデルベルグはアーモンドの木が植えられていて、名前はそこから来ています。
スポーレン〜Sporen〜
リクヴィール。1992年グランクリュ認定。粘土多め。下手をすると重苦しくなってしまうが、安定感があり整った形をしている。漸新世のマルヌと、ジュラ紀初期のリアス期のマルヌ。
マルクラン〜Marckrain〜
ベンヴィール、ジゴルスハイム。1992年グランクリュ認定。第三紀漸新世のコングロメレイト、マルヌ。ウーライト。
シュロスベルグ〜Schlossberg〜
キーンツハイム。1975年グランクリュ認定。花崗岩。ミグマタイト。
マンブール〜Mambourg〜
ジゴルスハイム。1992年グランクリュ認定。第三紀のコングロメレイト。暖かいリュー・ディ。石灰岩が風化した粘土。
フルシュテンタム〜Furstentum〜
ジゴルスハイム、キーンツハイム。1992年グランクリュ認定。ジュラ紀石灰岩。砂やマルヌ、砂岩。水捌けと保水性のバランス。
ケフェルコフ(ケフェルコプフ)〜Kaefferkopf〜
アメルシュヴィール。2007年グランクリュ認定。柔らかい。三畳紀などの花崗岩と石灰岩。
ヴィネック・シュロスベルグ〜Wineck-Schlossberg〜
アメルシュヴィール、カッツェンタル。1992年グランクリュ認定。花崗岩。
フロリモン〜Florimont〜
カッツェンタル、インゲルスハイム。1992年グランクリュ認定。第三紀の泥灰岩、石灰岩。比較的石が多い。第三紀にしては、柔らかく、厚みのあるワインが出来る。明るい性格。
ソンメルベルグ(ゾマーベルグ)〜Sommerberg〜
カッツェンタル、ニデルモルシュヴィール。1983年グランクリュ認定。45度の急斜面。小さな弾力のある球体。両雲母花崗岩。風化が進んでいる。鉱物が豊富。
ブランド〜Brand〜
テュルクハイム。1983年グランクリュ認定。花崗岩、黒雲母多い。
ヘングスト〜Hengst〜
ヴィンツェンハイム。1983年グランクリュ認定。第三紀マルヌ(泥灰岩)。濃い色の土。鉄分多い。粘土石灰質。厚み、重さ、強さ。優しくない。
シュタイングルーブラー〜Steingrubler〜
ヴェットルスハイム。1992年グランクリュ認定。三畳紀石灰岩に花崗岩、砂岩、第四紀のマルヌなど比較的新しい土壌が混ざるユニークなリュー・ディ。
アイシュベルグ(アイヒベルグ)〜Eichberg〜
エギスハイム。1983年グランクリュ認定。第三紀石灰岩、泥灰岩。まっすぐ芯のある。大きくゆっくり形良く広がる。軽やか。
プェルシッグベルグ(ペルシベルグ)〜Pfersigberg〜
ヴェットルスハイム、エギスハイム。1992年グランクリュ認定。三畳紀のマルヌ、砂岩。ゆるい。全然上に上がらない。水平的。さらっとしている。石灰が多いそうですが硬くない。下層土はコングロメレイト 、石灰岩の小石。灰色でとても硬いムシュカルク。カルシウムやマグネシウムが豊富な土壌。粘土質、シルト質。
ハッシュブルグ〜Hatschbourg〜
ヴォグランショッフェン、アットスタット。1983年グランクリュ認定。第三紀の重く深いマルヌ。たくさんの砂利。
ゴルデール(ゴルデルト)〜Goldert〜
ゲベルシュヴィール。1983年グランクリュ認定。ジュラ紀石灰岩。硬いウーライト(魚卵状石灰岩)。エルネスト・ビュルンの斜面上部の区画クロ・サン・ティメール〜Clos Saint Imer〜が最上区画。
シュタイネール〜Steinert〜
ファッフェンハイム、ヴェスタルテン。1992年グランクリュ認定。ジュラ紀石灰岩。ウーライト(魚卵状石灰岩)。泥灰岩。カチッとしていて、どんと沈み込むが、伸びやかさもある。
フォルブルグ〜Vorbourg〜
ルファック、ヴェスタルテン。1992年グランクリュ認定。ジュラ紀石灰岩。ウーライト(魚卵状石灰岩)。どっしり。幅がある。ウーライトのある他のリュー・ディと比べると硬さがなく、親しみやすいテイスト。南部らしい温かさ。
ツィンコップレ〜Zinnkoepflé〜
ヴェスタルテン、スルツマット。1992年グランクリュ認定。この辺りの中では涼しい。すっと抜けのいい。三畳紀ムシュカルク。断層があり、石灰岩、石膏、ドロマイト、砂岩。ムシュカルクも赤、灰色、白と様々。
フィングスベルグ〜Pfingstberg〜
オルシュヴィール。1992年グランクリュ認定。三畳紀ムシュカルクの石灰岩と砂岩。非常に急斜面、テラス状の畑。上部が砂岩で褐色の土壌、下部は茶色の石灰質土壌。丘の麓にはレスもある。降水量多め。
スピーゲル〜Spiegel〜
ベルグホルツ、ゲヴェウィレール。1983年グランクリュ認定。漸新世のマルヌ。砂岩や砂質。
ケスレール〜Kessler〜
ゲヴェウィレール。1983年グランクリュ認定。三畳紀ムシュカルク。ピンクの砂岩の砂、粘土もあるが軽い土壌。急斜面。ケスレールという名前は大釜を指すchaudronという言葉から来ているようです(グランクリュの形が大釜に似ている)
サエリング(ザーリング)〜Saering〜
ゲヴェウィレール。1983年グランクリュ認定。三畳紀。重め。小石のあるマルヌ。隣のキッテルレより穏やかな斜面で味わいも大人しい。サエリング川のところに断層がありキッテルレとは地質が違う。
キッテルレ〜Kitterlé〜
ゲヴェウィレール。1983年グランクリュ認定。火山岩。火山岩で有名なグランクリュのランゲンと比べると細身でスピーディ。
オルヴィレール〜Ollwiller〜
ヴエンハイム。1983年グランクリュ認定。漸新世のコングロメレイト、マルヌ。表土はヴォージュの赤い砂岩の小石、砂利、砂などを含んだ沖積土。
ランゲン〜Rangen〜
ヴュー・タン、タン。1983年グランクリュ認定。石炭紀の火山岩と石灰岩。急斜面。表土浅い。クロ・サン・チュルバン〜Clos Saint Urbain〜の区画が有名。太さ、力強さ、ゆっくりとした上昇感と土台の安定感。
アルザス・オー=ランのグランクリュの詳しい紹介はこちらからどうぞ。
アルザス・グランクリュを土壌ごとにまとめてみました。