メドック〜Médoc〜
ボルドーの中でも最もメジャーな地区がメドックです。ジロンド川の左岸に広がるエリアで、有名な格付けシャトーが集まっています。
メドックの中でも海に近い地区が、バ・メドックで、上流がオー・メドックとなります(現在は「バ」を付けずに、単にメドックという場合が多いです)
格付けシャトーはオー・メドックに集中しています。オー・メドックは北から、サン・テステフ、ポイヤック、サン・ジュリアン、マルゴーと、有名ワインを生産する村が続きます(サン・ジュリアンとマルゴーは離れている)。
サン・ジュリアンとマルゴーの間の内陸部には、ムーリスやリストラック・メドックがあります。川沿いのエリアの方がしっとりしていて、内陸部のムーリスやリストラック・メドックは、メリハリのあるワインになります。内陸部は、川の輻射熱の影響も少ないです。
リストラック・メドックはメドック地区では最も標高が高い場所です(と言っても40m程度ですが)
サン・ジュリアンが砂っぽい土壌なのに対して、ムーリスやリストラック・メドックは粘土の比率が高いのも特徴です。
アペラシオンとしては、メドックもオー・メドックも赤ワインのみが認められています。白ワインを造るとA.O.C.ボルドーになります。
多くの格付けワインは、サンテステフからマルゴーまでの4つの村に集中していますが、それ以外の村のシャトーが5つあり、アペラシオンは、オー・メドックとなります。
オー・メドックの格付け(5)
- シャトー・ラ・ラギューヌ〜Château La Lagune〜
- シャトー・ラ・トゥール・カルネ〜Château La Tour Carnet〜
- シャトー・ベルグラーヴ〜Château Belgrave〜
- シャトー・ド・カマンサック〜Château de Camensac〜
- シャトー・カントメルル〜Château Cantemerle〜
ナチュラルさに多少欠けますが、最新の設備で醸造されるシャトー・ベルグラーヴのクオリティは高いです。
サン・テステフ〜Saint-Estephe〜
オー・メドックの中でも北に位置するサン・テステフは粘土が多い土壌で、硬く、凝縮度の高いワインが生まれます。ボルドー左岸では少ない石灰もあります。華やかというよりは骨太などっしりした印象を受けます。粘土が多いためカベルネ・ソーヴィニヨンが主体の左岸の中では最もメルロ比率が高いのも特徴です。
格付けシャトーは5つあります。格付けシャトー以外にもクリュ・ブルジョワに選ばれているシャトーがたくさんあります。
サン・テステフの格付けシャトー(5)
- シャトー・コス・デス・トゥルネル〜Château Cos d’Estournel〜(第2級)
- シャトー・モンローズ〜Château Montrose〜(第2級)
- シャトー・カロン・セギュール〜Château Calon Segur〜(第3級)
- シャトー・ラフォン・ロシェ〜Château Lafon RoChâteaut〜(第4級)
- シャトー・コスラボリ〜Château Cos Labory〜(第5級)
格付けワインの中では4級のシャトー・ラフォン・ロシェがおすすめです。ビオディナミのボルドーらしい程よいナチュラルさがあります。
シャトー・ラフォン・ロッシェはロゼワインも造っていて、かなりお手頃な価格でラフォン・ロッシェのテロワールの良さを味わいことが出来ます(むしろとてもボルドー的です)
ナチュラルな方向にはあまり進んでいませんが(それでも昔とは違う)、2級のシャトー・コス・デス・トゥルネルの完成度はサン・テステフ随一です。
ポイヤック〜Pauillac〜
五大シャトーと呼ばれるメドック格付けの第1級シャトーが3つもあることで有名なのがポイヤック(ポーイヤック)です。
ポイヤックには18の格付けシャトーがあります。
他の地域より厚い砂礫質の土壌が中心です。礫の表土の下には泥灰土があるようで、それがサン・ジュリアンと比べて太さ、硬さを造ります。
ポイヤックの格付けシャトー(18)
- シャトー・ラフィット・ロートシルト〜Château Lafite-RothsChâteauld〜(第1級)
- シャトー・ラトゥール〜Château Latour〜(第1級)
- シャトー・ムートン・ロートシルト〜Château Mouton Rothschild〜(第1級)
- シャトー・ピション・ロングヴィル・バロン〜Château PiChâteaun-Longueville Baron〜(第2級)
- シャトー・ピション・ロングヴィル・コンテス・ド・ラランド〜Château PiChâteaun Longueville Comtesse de Laland〜(第2級)
- シャトー・デュアール・ミロン〜Château Duhart Milon〜(第4級)
- シャトー・ポンテ・カネ〜Château Pontet Canet〜(第5級)
- シャトー・バタイィ〜Château Batailley〜(第5級)
- シャトー・オー・バタイィ〜Château Haut Batailley〜(第5級)
- シャトー・グラン・ピュイ・ラコスト〜Château Grand Puy Lacoste〜(第5級)
- シャトー・グラン・ピュイ・デュカス〜Château Grand Puy Ducasse〜(第5級)
- シャトー・ランシュ・バージュ〜Château LynChâteauBages〜(第5級)
- シャトー・ランシュ・ムーサ〜Château LynChâteauMoussas〜(第5級)
- シャトー・ダルマイヤック〜Château d’Armailhac〜(第5級)
- シャトー・オー・バージュ・リベラル〜ChâteauHaut Bages Liberal〜(第5級)
- シャトー・ペデスクロー〜Château Pedesclaux〜(第5級)
- シャトー・クレール・ミロン〜Château Clerc Milon〜(第5級)
- シャトー・クロワゼ・バージュ〜Château Croizet Bages〜(第5級)
3つある第1級シャトーはやはり別格です。ロートシルトは今はきちんとフランス語の読み通りにロッチルドとソムリエ教本などにも書いていて、もちろんその方が正しいですが、どうしても昔から馴染みのあるロートシルトの方がしっくりきてしまいます。
ボルドーのビオディナミワインの代表であるシャトー・ポンテ・カネは5級ですがかなり素晴らしいワインです。値段も5級の価格ではないですが、その価値はあります。
年を追うごとにどんどんナチュラルテイストになっていて、以前シャトー・ポンテ・カネに訪れた時に頂いたリリース前だった2016年ヴィンテージは相当レベルの高いナチュラルワインでした(まだボトル詰め前の時点だったので一本ボトルに詰めてくれていた)
シャトー・ムートン・ロートシルトに隣接したシャトー・ダルマイヤックもコストパフォーマンスが高いワインです。
サン・ジュリアン〜Saint-Julien〜
メドックの4つの村の中では最も地味な存在のサン・ジュリアン。味わいももっとも控えめです。淡々とした印象を受けます。
小さな産地で、生産されるワインのほとんどが格付けシャトーです。
砂礫質の土壌から、ふんわり軽やかなワインが出来ます。硬さのない味わいです。
サン・ジュリアンの格付けシャトー(11)
- シャトー・レオヴィル・ラスカーズ〜Château Leoville Las Cases〜(第2級)
- シャトー・レオヴィル・バルトン〜Château Leoville Barton〜(第2級)
- シャトー・レオヴィル・ポワフェレ〜Château Leoville Poyferre〜(第2級)
- シャトー・デュクリュ・ボーカイユ〜Château Ducru Beaucaillou〜(第2級)
- シャトー・グリュオ・ラローズ〜Château Gruaud Larose〜(第2級)
- シャトー・ランゴア・バルトン〜Château Langoa Barton〜(第3級)
- シャトー・ラグランジュ〜Château Lagrange〜(第3級)
- シャトー・サン・ピエール〜Château Saint Pierre〜(第4級)
- シャトー・タルボ〜Château Talbot〜(第4級)
- シャトー・ブラネール・デュクリュ〜Château Branaire Ducru〜(第4級)
- シャトー・ベイシュヴェル〜Château BeyChâteauvelle〜(第4級)
サン・ジュリアンは1級格付けはありませんが、全体的にレベルが高いです。中でも知名度がトップクラスのシャトー・レオヴィル・ラスカーズはさすがの出来です。
個人的に格付けシャトーで最も色んなヴィンテージを飲んでいるシャトー・グリュオ・ラローズもオススメです。
セカンドワインのサルジェ・ド・グリュオ・ラローズはさらに多くのヴィンテージを飲んでいますが毎年出来がいいですしお手頃です。
マルゴー〜Margaux〜
メドックの中でも南に位置し、暖かい産地がマルゴーです。アペラシオンとしてのマルゴーは、マルゴー村、アルサック村、カントナック村、ラバルド村、スーサン村の5つの村の集合です。
マルゴーは面積も広く、格付け以外のワインも多いです。格付けシャトーは22あり、メドックの中で最大です。
深い砂礫質土壌に加えて、粘土や石灰岩もあります。
マルゴーのワインは複雑で、様々な要素が重なり合った味がします。他の3つのメドック村名アペラシオンはまっすぐな印象を受けますが、マルゴーは曲線を描くような印象です。
マルゴーの格付けワイン(22)
- シャトー・マルゴー〜Château Margaux〜(第1級)
- シャトー・ローザン・セグラ〜Château Rauzan Segla〜(第2級)
- シャトー・ローザン・ガシー〜Château Rauzan Gassies〜(第2級)
- シャトー・デュルフォール・ヴィヴァン〜Château Durfort-Vivens〜(第2級)
- シャトー・ラスコンブ〜Château Lascombes〜(第2級)
- シャトー・ブラーヌ・カントナック〜Château Brane Cantenac〜(第2級)
- シャトー・キルヴァン〜Château Kirwan〜(第3級)
- シャトー・ディッサン〜Château d’Issan〜(第3級)
- シャトー・ジスクール〜Château Giscours〜(第3級)
- シャトー・マレスコ・サン・テグジュペリ〜Château Malescot St.Exupery〜(第3級)
- シャトー・ボイド・カントナック〜Château Boyd Cantenac〜(第3級)
- シャトー・カントナック・ブラウン〜Château Cantenac Brown〜(第3級)
- シャトー・パルメ〜Château Palmer〜(第3級)
- シャトー・デスミライユ〜Château Desmirail〜(第3級)
- シャトー・フェリエール〜Château Ferriere〜(第3級)
- シャトー・マルキ・ダレーム・ベッカー〜Château Marquis d’Alesme Becker〜(第3級)
- シャトー・プージェ〜Château Pouget〜(第4級)
- シャトー・プリューレ・リシーヌ〜Château Prieure LiChâteaune〜(第4級)
- シャトー・マルキ・ド・テルム〜Château Marquis de Terme〜(第4級)
- シャトー・ドーザック〜Château Dauzac〜(第5級)
- シャトー・デュ・テルトル〜Château Du Tertre〜(第5級)
やはり第1級のシャトー・マルゴーは別格です。
知名度の高いシャトー・ローザン・セグラもさすがのクオリティです。
メドックの格付け以外のワイン
上記で挙げたように、メドックには有名な格付けワインが揃っていて、それ以外のワインは(一部、すごく有名なワインもありますが)、あまり関心を持たれない傾向にあるように思います。
格付けは1855年とかなり昔に制定され、そこからほぼ変わってないにせよ、多くの格付けワインは、見合っただけの質を備えていると思います(格付けシャトーだから売れる→大規模投資→質に向上の好循環)
ですが、多くの格付けシャトーは、味わいを作り込む傾向にあります。凝縮度が高くカッチリして、タンニンが強めの、多くの人がイメージするボルドーのワインです(タンニンが強いといっても、昔のように20年寝かさないと飲めないみたいのはないと思います。プリムールで試飲してもすでに美味しい)
醸造技術が高くなった現在のワインからは、土地の個性が見えにくい印象を受けます。
格付けではないメドックのワインを飲むと、全体的にしっとり優しいです。その村らしい個性を感じ取りやすいと思います。
ナチュラルなメドックワイン
雨が多く病害が発生しやすいボルドーは、ナチュラルワインが造りづらい産地です。昔は絶対に無理だと言われていました。現在はメドックでも1級シャトーを含めた多くの造り手がビオロジックはもちろん、ビオディナミにも取り組み始めています(メドックは他の地域よりも有名シャトーがナチュラルな造りにシフトする動きが速いように思います)
メドックにおけるビオディナミワインの代表は前述したポイヤックのシャトー・ポンテ・カネでしょうか?ビオディナミに転換してからの評価はうなぎ登りで、ボルドーならではのビオディナミワインの味わいを上手に構築しています(従業員の多いボルドーのシャトーで、ビオディナミのような思想を共有する必要のあるワイン造りは本当に難しい)
1級シャトーのラフィット・ロートシルトなどもビオディナミを取り入れ始めています。この流れは今後加速していくと思います。シャトー・パルメもしっかりビオディナミのエネルギー感を感じるワインです。
ビオディナミでなくてはならないとは思いませんが、栽培や醸造を出来るだけ自然にしたナチュラルなボルドーは、今までのボルドーにはなかったほぐれ感とエネルギー感があり、とても魅力的です(一部、あまり出来のよくないナチュラルなボルドーも見かけます)
ボルドーのガッチリした部分は造りもそうですが、農薬や除草剤の影響とも言えるはずです。
シャトー・ポンテ・カネやシャトー・パルメのようなビオディナミワインを垂直試飲してみると、年ごとにどんどん自由で開放的な味わいになっているのがわかります。
2019年の東京でのプリムール試飲会でワインを飲んだ時は、ビオディナミのシャトー・デュルフォール・ヴィヴァンだけが他とは全く違う形をしたワインでした(ポンテ・カネやパルメ はありませんでした。デュルフォール・ヴィヴァンのオーナーの奥さんが持っているフェリエールもビオディナミですが、比べると既存のワインの味に近いです)
セカンドワインのル・ルレ・ド・デュルフォール・ヴィヴァンもオススメです。
デュルフォール・ヴィヴァンやポンテ・カネの最新ヴィンテージのワインは、あまりに今までのボルドーと違いすぎて、逆に受け入れられるのか心配になる程ですが、非常にクオリティが高いワインだと思います。よりメドックらしさが際立っています。
ボルドーのワイン産地②、グラーヴの記事はこちら。