アンジュ〜Anjou〜
アンジュはアンジェ市周辺に広がる地区の名前で(昔は州の名前だった)、アンジュー帝国の始まりの地です(ワインのA.O.C.名もアンジューと伸ばした方がわかりやすい気はしますが、現状はアンジュとします)
もっとも有名なアペラシオンは甘口ロゼワインのロゼ・ダンジュ〜Rose d’ Anjou〜です。
20年以上前に流行ったロゼ・ダンジュは、今は見かけることも少なくなりましたが、そのイメージは根強く、アンジュと言えば甘口ロゼと考える人が多い地域です。
ですが、もちろん甘口以外のワインもあり、現在は辛口ワインの方が人気です。辛口が人気とは言え、特にシュナン・ブランなどは、完熟させて少し甘さを感じるワインの方がバランスが取れていると感じます(後述するサヴニエールも含めて)
アンジュの土壌
アンジュの土壌はアルモニカ山塊の頁岩や砂岩、シストなどです。テュフォーと呼ばれる石灰岩も一部の地域にはあります。アンジュは平地が多く。ワインは全体的に穏やかでゆったりして、安定感があります。
シストの割合が増えるとしなやかな伸びが出ますが、そうではないどっしり感のあるタイプも魅力的です。このアンジュらしさがもっとも感じられるのはシュナンブランを使ったアンジュ・ブランです。
アンジュ地区は海洋性気候です。
アンジュのぶどう品種
アンジュの白ぶどうは先に書いたようにシュナンブランです。黒ぶどうはカベルネフランやカベルネソーヴィニヨンに、ロゼダンジュなどで使用されるグロローといったこの土地ならではの品種もあります。
白ワインは、アンジュ・コトー・ド・ラ・ロワールという甘口ワインのA.O.C.もありますが、辛口のA.O.C.アンジュの白ワインがおすすめです(A.O.C.アンジュの白ワインは辛口から半甘口まで可能)
ロゼ・ダンジュはグロロー主体のワインですが、同じ甘口ロゼのワインとしては、カベルネフランやカベルネソーヴィニヨンを使ったカベルネ・ダンジュ〜Cabernet d’ Anjou〜もあります。
カベルネ・ダンジュが認められている地域は割と広いので土壌も多岐に渡りますが、こちらはシスト土壌のカベルネダンジュです。使えるワイン。
ドメーヌ・デ・オート・ウーシュのロゼ・ダンジュは、全体的に良いロゼ・ダンジュが少ない現状がある中、安心していただけるクオリティです。リュット・リゾネですが、かなり自然な栽培を行っています。
辛口のロゼとしては、ロゼ・ド・ロワール〜Rose de Loire〜があります。
アンジュの赤ワインは、カベルネフランを使用したものが基本です(A.O.C.アンジュは赤ワインも白ワインも可)
カベルネソーヴィニヨンをアッサンブラージュしたものや、ガメイを使用したアペラシオンのアンジュ・ガメイ〜Anjou-Gamay〜もあります。
アンジュ・ヴィラージュやアンジュ・ヴィラージュ・ブリサックという赤ワインのA.O.C.もあります。
アンジュと名前の付くA.O.C.は赤ワインとロゼワインが認められたものが多く、白ワインのA.O.C.は少ないですが、赤も白もどちらも使えるワインですし、どちらかというとシュナンブランの白が大事かなと思います。
アンジュの中でも最初期のドメーヌの1つであるシャトー・ド・フェルは後述する甘口ワインの産地ボンヌゾーの造り手です。甘口ワインのレベルが高いですが、スティルの白ワイン、赤ワインともにレベルが高いです。こちらのアンジュ・ルージュ・ラ・シャペルはカベルネフラン100%の赤ワインです。甘口ロゼのロゼ・ダンジュとカベルネ・ダンジュも生産しています。
アペラシオンは取得出来ていないものが多いですが、アンジュといえば、ナチュールの造り手、ラ・フェルム・ド・ラ・サンソニエールは外せません。グロロ・グリ100%のロゼ・ダンジュールは、既存のロゼ・ダンジュとは全く違った魅力的なワインです。
サヴニエール〜Savennières〜
アンジェの南西には、アンジュ地方の中でも特別な産地、サヴニエールがあります。アンジュのワインの発展系のような印象。より大きく余韻も長いのが特徴です。
サヴニエール、ブシュメーヌ、ラ・ポソニエールの3つの村からワインは生まれます。
土壌は火山岩や砂岩、片岩、砂質などです。
サヴニエールは12cに修道士によって開墾された地域です。
サヴニエールはロワールを代表する産地と言えますが、その中でも2つの畑は特に優れた個性を持っています。
クーレ・ド・セラン〜Coulee de Serrant〜とサヴニエール・ロッシュ・オー・モワンヌ〜Savennieres Roche aux Moines〜です。
クーレ・ド・セランは以前はサヴニエール・クーレ・ド・セランでしたが、2015年に名称が変更になりました。
どちらも現在は単独のA.O.C.ですが、以前はサヴニエールの後ろに表記出来ただけでした。2011年から単独のA.O.C.となっています。
クーレ・ド・セランもロッシュ・オー・モワンヌもどちらも良いワインですが、個人的な感覚だとクーレ・ド・セランの方が圧倒的です。
クーレ・ド・セランは、シトー派の修道士によって12世紀に植えられた畑で、1962年からジョリー家が所有しています。
元投手のニコラ・ジョリー氏は非常に有名な方ですが、世界中で最もビオディナミに精通したワイン生産者の一人と言って良いと思います。
クーレ・ド・セランは、これぞビオディナミという素晴らしいナチュラルワインです。ニコラ・ジョリーのワインはどれもナチュラルでエネルギー感がありますが、クーレ・ド・セランがやはり別格だと思います。よくあるナチュールワインとはまったく関係のない別軸のワインです。
割と平坦な畑が多いアンジュ、サヴニエールですが、クーレ・ド・セランは急斜面です。
ヴュー・クロの畑から生まれるレ・ヴュー・クロもサヴニエールらしい良いナチュラルワインです。
ロッシュ・オー・モワンヌはドメーヌ・オー・モワンヌが有名で、古いヴィンテージも多く流通するありがたいドメーヌです。
ロッシュ・オー・モワンヌを所有する造り手は他にもいて、個人的にはフルニエ・ロンシャンは気に入っています。
他にもクーレ・ド・セランやロッシュ・オー・モワンヌの北側(ロワール川上流方向)にあるラ・クロワ・ピコ〜La Croix Picot〜、サヴニエールの西端の丘に位置するクロ・デュ・パピヨン〜Clos du Papillon〜、ロッシュ・オー・モワンヌの内陸に位置するクロ・ル・グラン・ボープレオー〜Clos Le Grand Beaupreau〜といった素晴らしい畑があります。
上記以外の畑もサヴニエールは基本どれも上質です。クーレ・ド・セランは別格とは言え、全体の質が高いエリアです。
コトー・デュ・レイヨン〜Coteaux du Layon〜
サヴニエールのロワール川を挟んだ対岸には、シュナンブランを使った甘口白ワインの産地が広がります(支流のレイヨン川の周辺)
その中でももっとも大きな地域を占めるのがコトー・デュ・レイヨンです。
この辺一帯は、霧が出やすく貴腐ぶどうが出来やすい場所です。そのため貴腐ワインが造られることが多いですが、貴腐ではないとダメなわけではありません。遅摘みのぶどうでワインが造られている場合もあります。
コトー・デュ・レイヨンで有名な造り手にムーラン・トゥーシェがいます。これは2007年とそこまで古くないヴィンテージですが、かなり古いヴィンテージも流通しています。
コトー・デュ・レイヨンの中でも6つのコミューンで造られるワインはコトー・デュ・レイヨンの後ろにコミューン名を表記することが出来、特に品質が高いと言われています。
- ボーリュー・シュル・レイヨン〜Beaulieu sur Layon〜
- フェイ・ダンジュ〜Faye d’Anjou〜
- ラブレ・シュル・レイヨン〜Rablay sur Layon〜
- ロッシュフォール・シュル・ロワール〜Rochefort sur Loire〜
- サントーバン・ド・リュイーヌ〜Saint Aubin de Luigne〜
- サン・ランベール・デュ・ラッテイ〜Saint Lambert du Lattay〜
こちらはロッシュフォール・シュル・ロワールで1935年からワイン造りを行っているドメーヌ・ド・ラ・モットのコトー・デュ・レイヨン・ロッシュフォール・ドゥです。
シャトー・デュ・ブルイユはボーリュー・シュル・レイヨンで、1822年からワインを造る歴史ある造り手です。
ミッシェル・ブルアンはサントーバン・ド・リュイーヌの造り手です(楽天やAmazonのリンクが切れてしまったのでリンクは消しました)
カール・ド・ショーム〜Quarts de Chaume〜
レイヨン川流域には、さらに特別な地域が2つあります。カール・ド・ショーム〜Quarts de Chaume〜とボンヌゾー〜Bonnezeaux〜です。
カール・ド・ショームは、2011年に名称が変わりカール・ド・ショーム・グラン・クリュとなっています。
2003年にはショーム・プルミエ・クリュ・デ・コトー・デュ・レイヨン〜Chaume 1er Cru des Coteaux du Layon〜というアペラシオンが生まれましたが、カール・ド・ショームの造り手の訴えによって消滅。2007年にはショームというアペラシオンが新たに出来るものの、それも訴えで消滅。
カール・ド・ショームがグラン・クリュとして認められた時に、再び名称変更で、コトー・デュ・レイヨン・プルミエ・クリュ・ショーム〜Coteaux du Layon Premier Cru Chaume〜というアペラシオンとなっています。
カール・ド・ショームはショーム村周辺で造られている甘口ワインで、ショーム村自体は、コトー・デュ・レイヨン・ロッシュフォール・シュル・ロワールのコミューン内です(レイヨン川とロワール川が交差する辺りのエリア)
ドメーヌ・ド・ラ・ベルジュリーはアンジュ、サヴニエールエリアでワインを造る生産者です。サヴニエールのクロ・ル・グラン・ボープレオーや、ラ・クロワ・ピコの畑から素晴らしいワインを生産していますが、甘口のカール・ド・ショームも非常に良いです(こちらもリンク切れ)
紹介しているのはドメーヌ・デ・ボーマールのカール・ド・ショームです。
ボンヌゾー〜Bonnezeaux〜
ボンヌゾーは、コトー・デュ・レイヨンの中央部にあるトゥアルセ村周辺のアペラシオンです。
カール・ド・ショームもボンヌゾーもシスト土壌です(コトー・デュ・レイヨンも)
比べるとカール・ド・ショームの方がサラッと涼やかな印象で、ボンヌゾーは肉付きがよく豊潤です。
ドメーヌ・ラ・クロワ・デ・ロージュはボンヌゾーのエリアのマルティーニュ・ブリアン村で1920年に設立されました。リュット・リゾネ。レ・ペリエールの区画から造られたボンヌゾーです。
コトー・ド・ローバンス〜Coteaux de L’Aubance〜
コトー・デュ・レイヨンの北側、ローバンス川の周辺エリアにはコトー・ド・ローバンスというアペラシオンがあります。
コトー・ド・ローバンスのワインも貴腐ぶどうも出来ますが、基本は中甘口で落ち着きがあって、使い勝手のいいワインです。
ドメーヌ・ド・バブリュはアンジュやコトー・ド・ローバンスに畑を持つ歴史ある造り手です。現当主で52代目というからすごいですね。1996年からビオロジック栽培で、このエリアでは最初期です。このコトー・ド・ローバンス・ムーラン・ド・バブリュは1984年ヴィンテージなのでビオロジック前ですが、現行ヴィンテージと飲み比べてみたいですね。
アンジュ周辺の甘口ワインの産地は古いヴィンテージのものが比較的安価で容易に手に入りますが、中甘口のコトー・ド・ローバンスに関してはもう少し若いワインの方が良い気はします(とは言えこのコトー・ド・ローバンス・ムーラン ド・バブリュ1983はなかなか良い味わいですが)
ロワールのワイン産地③、ソーミュールの記事はこちらからどうぞ。